令和8年(2026年)の熊本地震をはじめ、ここ10年を振り返るだけでも「100年に一度」と呼ばれるような大規模な自然災害が日本各地で頻発しています。「もはや日本に安全な場所はないのではないか」と、住まいの安全性に対して不安を抱かれている方も多いのではないでしょうか。
日本の建築基準法では、地震に対する建物の強さについて明確な目標が定められています。 例えば、震度5強程度の中地震(数十年に一度遭遇する規模)に対しては「建物が損傷しないこと」を求めています。そして、震度6強から7に達するような大地震(数百年に一度遭遇するかしないかの規模)に対しては、たとえ建物が損傷したとしても「倒壊・崩壊せず、住む人の人命を守り抜くこと」を大前提として設計されます。
過去、日本は大きな震災を経験するたびに、この建築基準法の改正を幾度も重ねてきました。その結果、現在の日本の構造基準は、世界的に見ても非常に厳格で、トップクラスの安全性を誇るようになっています。
近年では、建物の強さをランク分けした「耐震等級」を用いてさらに高い耐震性を求める方や、中古物件を対象とした「耐震診断」を促進する自治体の条例なども増えてきました。既存の建物の状態を正しく把握し、必要に応じて耐震改修を行うことは、命を守る上で非常に重要です。
しかし、ここで私たち設計事務所として、一つ立ち止まってお伝えしたいことがあります。 それは、「数値上の耐震性や環境性能が高ければ、必ずしも『居住性が高い(住み心地の良い)家』になるとは限らない」ということです。
建物の耐震性を極限まで高めようとすれば、建物を支える「耐震壁」を多く配置する必要があります。壁を増やせば、必然的に窓などの開口部は小さく、少なくなっていきます。確かに、計算書に並ぶ数値としての安全性や、高気密・高断熱といった環境性能は上がるでしょう。しかし、光が十分に差し込まず、風が抜けない閉鎖的な空間は、果たして本当に豊かな生活空間と言えるのでしょうか。
家とは本来、自然の恵みを五感で楽しむ場所であるべきだと私たちは考えています。
朝目覚めたときに爽やかな朝日を全身に浴び、部屋を通り抜ける風の匂いに季節の移ろいを感じる。空気のふとした温もりや冷たさに触れ、夏には夏の、冬には冬の暮らしの営みがある。そうした自然とのささやかな応答こそが、日々の生活に確かな潤いをもたらしてくれます。
もちろん、安全性(耐震性)を疎かにして良いというわけでは決してありません。いざという時に命を守る強さは、建築において譲れない大前提です。私たちが大切にしているのは、その安全な構造体の中に、壁の配置や窓の取り方を緻密に計算し、「心地よい抜け感」や「自然とのつながり」をいかにデザインするかという視点です。
「数値としての強さ・性能」と、「感覚としての心地よさ」。 これからの家づくりや耐震改修においては、何事もこの2つのバランスを美しくとることが最も重要になってきます。
ご自宅の耐震性に不安がある方、これから中古物件の購入やリノベーションをお考えの方は、単に数値をクリアすることだけを目的とせず、「暮らしの豊かさ」までを一緒に考えてくれる専門家に、ぜひ一度ご相談してみてください。

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